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和洋折衷(1) [巻之四曙光]

 文化が伝播するということは、そうそう生易しいことではない。モノが存在するということと、人がそのモノの意味を理解し、再生産するということは違う次元の話である。 例えば、側面にこびついていたススの放射性炭素測定で〔BC1000年±100年〕という結果が出た土器があった、とする。放射性炭素測定というのは、「C14」と呼ばれる炭素の同位元素が5568年で半減する原理を応用するのである。炭化した穀物、木片、ススなどに適用して、年代をさかのぼる。
 ――紀元前1000年±100年という結果が出た土器があった、とする。
 ではなくて、実際に2003年の12月、西日本各地の縄文時代後期から古墳時代前期および、韓国南部の無文土器時代の遺跡で発掘された土器に付着していた炭化物69点、炭化米2点、漆2点、建物柱7点など計80点以上の総合評価として、そういう数値が与えられた。
 調査に当ったのは国立歴史民俗博物館である。
 ――測定値が正しいとして。
 というのは、保存施設が不十分だと出土物が現代の空気中に含まれる炭素を吸収してしまうからである。おのずから放射性炭素測定の結果に重大な誤差が出る――可能性がある。
 博物館は記者を集めて会見し、
 「北部九州の弥生早期の始まりは、前10世紀、弥生前期の始まりは前9世紀末から前8世紀前半、中期の始まりは前4世紀前半である。四国の弥生前期は、前9世紀末から前8世紀前半以降で、北部九州より若干遅れる可能性もある」
 と発表した。
 同博物館は日本古代史学に一時代を築いた井上光貞東大名誉教授の遺志を受け継ぐ権威ある研究機関なので、国が検定している教科書の記述にも影響を与える可能性がないでもない。
 ただ、その発表には異論が存在する。
 「弥生」
 という雅やかな名を持つこの時代は、土器の形状と文様を指標にして編年が形成された。ところが、当時の社会を再現する総合的な評価に用いられるのは、土器のみではないのである。利器において石器、木器、金属器があり、埋葬方式に支石墓、甕棺墓、土壙墓があり、装飾品に貝釧、勾玉、ビーズ、黄金などがある。食生活においては水田耕作によるコメばかりでなく、栗の栽培が知られる。
 つまりコメというのは、時代を表徴するファクターの一つに過ぎない。

【補注】


国立歴史民俗博物館 千葉県佐倉市城内町117。大学共同利用機関法人人間文化研究機構の一組織として1983年に設立された。同博物館のホームページによると、事業は①研究②情報提供③一般公衆に対する教育④資料の収集・制作・保管⑤大学院教育等への協力⑥国際交流が挙げられている。うち研究活動では「日本の歴史及び文化を実証的に解明することを目標とし、歴史・考古・民俗資料を系統的に収集・整備し、これらの資料に基づき、歴史・考古・民俗及び情報資料の各研究系が相互に連携,協力しつつ、関係分野の研究を推進すると共に、全国の大学等の研究者の参画を得て、専門を異にする複数の研究者が共通研究課題のもとにプロジェクトを組織して、共同研究を行います」とある。
弥生時代の年代に関する発表 国立歴史民俗博物館2003年12月発表資料「弥生時代の実年代」(「二〇〇三年度の炭素14年代の調査」藤尾慎一郎、「弥生時代の実年代」春成秀爾、「青銅器からみた弥生時代の実年代」宮本一夫、「世界のAMS研究の現状と課題」今村峯雄)。
井上光貞 いのうえ・みつさだ/1917~1983。東京都に生まれ1942年東京帝国大学国史学科を出た。坂本太郎、和辻哲郎に師事し1961年東大助教授、1967年教授。1979年退官し文化庁を経て1981年国立歴史民俗博物館館長となった。津田左右吉の文献批判を継承し実証主義的考察をもって日本古代史論を展開した。ちなみに父は桂太郎の次男・三郎、母は井上馨の長女・千代子である。
縄文時代に稲作が行われていたことを示す例 縄文式土器につく籾痕がある。またいくつかの遺跡から炭化した米が発見されている。最も古い時代に属するのは青森県八戸市の風張遺跡から出土した七粒の炭化米である。放射性炭素による年代測定の結果、紀元前八百年前後という数値が出た。農具や栽培跡などは発見されていないが、住居跡から出土したこと、のちの時代の遺物が混入した形跡がないことなどから、国の重要文化財に指定されている。国立歴史民俗博物館も前記発表に際して当然反論が予想されたため、「当博物館研究チームは水稲耕作の開始をもって弥生時代の始まりと考えている」とコメントしている。

タグ:富国強兵
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