SSブログ

千年の時空(3) [序叙]

 陸蒸気は32キロを行くのに小一時間を要していた。文化の伝達速度は8倍に上がった。次いで液体の化石燃料を爆発させ、動力を得る方法が編み出された。

 エンジンは当初、1886年にドイツのカール・ベンツが三輪車に、その10年後にアメリカのヘンリー・フォードが四輪車に搭載して、ここに自動車が登場した。1903年(明治三十六)にはライト兄弟が空――地上15メートル――を、12秒間にわたって浮遊することに成功した。木材の支柱と布でできた初期の複葉式プロペラ飛行機の速度は、時速60キロに過ぎなかった。
 現代は太平洋を容易に10時間で横断できる手段があり、東京と大阪間を3時間余りで移動できる。第二次大戦後であってもトラック輸送は東京―大阪間に丸3日を要していたが、高速道路がある現在は6時間か7時間でいい。文物が伝わる速度は、19世紀末の100倍を優に超える。

 次に情報の伝達というものを考えてみる。
 かつて情報というものは、人と人が直接会い会話を交わし、物を手渡すことによって伝達されていった。
 その証拠は黒曜石である。
 長野県の標高2000メートルを超える高地斜面で採取された黒曜石は専門の工房で加工され、商品として関東各地に運ばれた。あるいは神津島で産出した黒曜石が沼津で発見されている。
 さらにいえば、遠く赤道直下の島でしか取れない貝の装飾品が埋葬遺跡から出土する。こうした事実は、西暦紀元を数千年さかのぼる太古において、交易が行われていたことを示す。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

千年の時空(2)千年の時空(4) ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。